その他の特定遺伝子型

現在、遺伝的不良形質以外の遺伝子型検査は下記の項目が検査可能です。

対象品種:黒毛和種・ホルスタイン種

メラニン細胞刺激ホルモン受容体(MSHR)遺伝子は、毛色をコントロールする遺伝子の一つで、毛色が黒になる黒毛遺伝子(E)と、あか毛/レッドになるあか毛遺伝子(e)があります。
本変異は第18番染色体に存在するMSHR遺伝子のアミノ酸翻訳部開始位から311番目の塩基であるグアニンが欠失するものです。この変異が原因となり、以後のアミノ酸配列に大幅な変化を生じることになります。その結果、黒い色のユーメラニンの形成が抑制され、赤い色のフェオメラニンが形成されることで体毛があかくなります。

・検査成績の表示法

MSHR-E/E 黒毛遺伝子(E)のみであか毛遺伝子(e)を持たないため、あか毛/レッドにはなりません。子にあか毛遺伝子(e)を伝えることはありません。
MSHR-E/e 黒毛遺伝子(E)とあか毛遺伝子(e)を一つずつ持ちます。黒毛があか毛に対して優性であるため本牛はあか毛/レッドにはなりませんが、1/2の確率で子にあか毛遺伝子(e)を伝えるため、交配する牛によっては子にあか毛/レッドが現れることがあります。
MSHR-e/e あか毛遺伝子(e)のみを持つため、あか毛/レッドになります。

対象品種:黒毛和種

牛肉の風味や食感は体脂肪中の不飽和脂肪酸の含有量が多いほど良いことが知られており、その含有量は多くの要因によって左右されると考えられています。ステアロイル-CoAデサチュラーゼ(SCD)は、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に変える酵素の一種であり、SCD遺伝子は、その878番目の塩基の違いにより、生成されるアミノ酸がアラニン型とバリン型に分けられ、アラニン型(H)の牛はバリン型(L)よりも不飽和脂肪酸の含有量が多く好ましい形質であることが判明しています。
SCD遺伝子型を検査することで、その牛の体脂肪の不飽和脂肪酸の含有量の多少とともに、子孫に伝える遺伝子の優位性を判定することができます。

・検査成績の表示法

SCD-HH SCDのアミノ酸がアラニンである遺伝子を2つ持っており、SCDが及ぼす飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に換える働きは、3種類の遺伝子型の中で最も強くなります。
SCD-HL SCDのアミノ酸がアラニンである遺伝子を1つ持っており、SCDが及ぼす飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に換える働きは、3種類の遺伝子型の中間です。
SCD-LL SCDのアミノ酸がアラニンである遺伝子を持っていないため、SCDが及ぼす飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に換える働きは、3種類の遺伝子型の中で最も弱くなります。

対象品種:黒毛和種

GRIA1は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体の遺伝子でチャネル活性が高いG型遺伝子と低いA型遺伝子があります。G型の牛はA型よりも過排卵処理前の未成熟卵胞数が多く、さらに過排卵処理後の成熟卵胞数も多いため、回収卵数が多くなる傾向があると言われています。

・検査成績の表示法

GRIA1-G/G 過排卵処理による排卵数が多い傾向があります。
GRIA1-A/G 過排卵処理による排卵数が中程度の傾向があります。
GRIA1-A/A 過排卵処理による排卵数が少ない傾向があります。

対象品種:黒毛和種

と畜後の牛肉中に存在するイノシン酸は、時間経過に伴うイノシン酸分解酵素の働きにより残存量が減少していくといわれています。イノシン酸分解酵素(NT5E)遺伝子内の1475番目の塩基がチミン(T)からアデニン(A)に変化することで酵素活性が低下し、牛肉中のイノシン酸含量が減少しにくいことが報告されています。
牛イノシン酸関連遺伝子型を検査することで、その牛におけると畜後の牛肉中のイノシン酸含有量の多少とともに、子孫に伝える遺伝子の優位性を判定することができます。

・検査成績の表示法

NT5E-HH 酵素活性が低い遺伝子を2つ有するため、イノシン酸含量がより高い傾向があります。
NT5E-HL 酵素活性が高い遺伝子と低い遺伝子をそれぞれ有するため、イノシン酸含有量が中程度になる傾向があります。
NT5E-LL 酵素活性が高い遺伝子を2つ有するため、イノシン酸含有量が低い傾向があります。

対象品種:ホルスタイン種・ジャージー種

無角は顕性(優性)遺伝様式のため、無角因子を有する個体はすべて無角の表現型を示します。
無角因子を2つ持つ個体は、子もすべて無角になりますが、有角因子と無角因子を1つずつ持つ個体からは有角の子が生まれることがあります。また、無角の原因となる遺伝子は特定されていないため、関連が報告されている領域の配列から遺伝子型を推定する検査となります。そのため、検出する領域での組換えが確認された場合、該当する個体は表現型が有角、無角に関わらず検査結果は「組み換えにより判定不能」となります。
ゲノミック評価時のハプロタイプ推定とは異なり、対象領域をより詳細に検査することから、フリーシアン型とケルト型(ジャージー種など)の両方に対応した推定が可能となっています。

・検査成績の表示法

POF(TP)と推定 有角因子のみを保有し、無角因子を持たないと推定されます。表現型は有角となります。
POC(PC)と推定 無角因子と有角因子を持っていると推定されます。表現型は無角となりますが、子に1/2の確率で有角因子を伝えるため、交配する牛によっては子が有角となります。
POS(PP)と推定 無角因子のみを持っていると推定されます。表現型は無角となり、その子もすべて無角となります。
組み換えにより判定不能 検査領域内で組み換えが起きている可能性が高いため、表現型に関わらず遺伝子型について判定ができません。

対象品種:ホルスタイン種・ジャージー種

βカゼインタンパク質遺伝子がコードする67番目のアミノ酸がヒスチジンであるかプロリンであるかを判定する検査です。
βカゼインタンパク質には多くの多型が存在するため、当該部位以外のアミノ酸が変異している場合はA型以外に分類されますが、本検査では他の変異部位に関わらず67番目のアミノ酸がヒスチジンをコードしている場合をβカゼインA1型、プロリンをコードしている場合をβカゼインA2型としています。

・検査成績の表示法

BCN-A1/A1 βカゼインA1型遺伝子のホモ接合体である。
BCN-A1/A2 βカゼインA1型遺伝子およびA2型遺伝子のヘテロ接合体である。
BCN-A2/A2 βカゼインA2型遺伝子のホモ接合体である。