現在、黒毛和種の遺伝的不良形質は下記の項目が検査可能です。すべて常染色体潜性遺伝様式ですので、正常牛と保因牛は外見では区別がつきません。
なお、毛色は遺伝的不良形質に含まれませんのであか毛の遺伝子型検査はその他の遺伝子型検査をご覧ください。
本症は、バンド3遺伝子の1990番目の塩基が正常型のシトシンから変異型のチミンに変わることで正常なバンド3タンパク質が作られなくなり発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は、生後すぐに溶血性貧血、呼吸の乱れ、黄疸、脾腫、低体重などの症状を示し、多くが子牛の時期に死亡します。また、この時期を耐過した場合でも慢性貧血等で発育が悪く経済的損失が大きいと言われています。
赤血球膜の主要構成成分であるバンド3タンパク質が欠損し、赤血球膜の変形機能が失われ球状になっていることから球状赤血球症とも呼ばれます。
・検査成績の表示法
B3-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、バンド3欠損症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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B3-保因 | 正常遺伝子と疾患型遺伝子を持っています。バンド3欠損症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
B3-欠損 | 疾患遺伝子のみを持つため、バンド3欠損症になります。 |
本症は、血液凝固第13因子のAサブユニットをコードする遺伝子の248番目の塩基が正常型のチミンから変異型のシトシンに変わることで生ずる常染色体潜性の遺伝的不良形質です。血液凝固過程のフィブリン安定化因子である第13因子が欠損しているために引き起こされます。
発症牛は、臍帯からの出血を起こし、血腫のため生後数日で死亡する場合がほとんどです。輸血によって一旦回復しても完治せず、腹膜炎、打撲による皮下血腫などが繰り返され発育不良となり、重篤な場合では出血死するなど、経済的損失は大きいと言われています。
・検査成績の表示法
F13-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、第13因子欠損症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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F13-保因 | 正常遺伝子と疾患型遺伝子を持っています。第13因子欠損症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては、子に疾患型が現れることがあります。 |
F13-欠損 | 疾患遺伝子のみを持つため、第13因子欠損症になります。 |

本症は、糸球体や尿細管の上皮細胞に存在するクローディン16と呼ばれるタンパク質が欠損することで発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
主な症状としては腎機能不全による尿毒症で、下痢や軟便、大量の希薄尿が見られ、生化学的にはBUN、クレアチニンの上昇がみられます。病理学的所見では尿細管の消失、糸球体の線維化などが見られます。外観的には過長蹄が見られます。治療しても効果は見られず多くは生後数ヶ月程度で死亡しますが、数年後になって発症する場合も報告されています。
疾患遺伝子にはType1とType2が存在し、いずれも正常遺伝子に対して潜性であるため保因牛は臨床的に正常です。
また、Type1とType2とも臨床的には同じ症状を示します。
・検査成績の表示法
CL16-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、クローディン16欠損症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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CL16-保因1 CL16-保因2 |
正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。クローディン16欠損症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
CL16-欠損1 CL16-欠損1・2 CL16-欠損2 |
疾患遺伝子のみを持つため、クローディン16欠損症になります。 |
本症は、CHS1遺伝子(LYST遺伝子)の変異によって発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は、血小板機能の異常による止血不全(打撲や去勢時に出血が止まりにくい)や血腫を主徴としますが、発症した場合の致死性は低いと言われています。その他の特徴として体毛の淡色化、赤目が発生することが報告されています。また、白血球、特に好酸球に巨大顆粒が認められます。
対症療法として輸血は有効とされています。
・検査成績の表示法
CHS1-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、チェデアックヒガシ症候群になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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CHS1-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。チェデアックヒガシ症候群を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
CHS1-変異型 | 疾患遺伝子のみを持つため、チェデアックヒガシ症候群になります。 |
本症は、第18番染色体に存在する原因遺伝子の変異によって発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は、出生時から水晶体や虹彩が認められず、小眼球症を呈し、完全に盲目になります。本症の致死性は低く盲目以外の特徴的な症状は見られません。
・検査成績の表示法
MOD-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、眼球形成異常症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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MOD-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。眼球形成異常症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
MOD-欠損 | 疾患遺伝子のみを持つため、眼球形成異常症になります。 |
本症は、モリブデン補酵素硫化酵素遺伝子の変異により発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。主な症状はキサンチンが代謝されずに体内に蓄積することによって生じる尿路結石とそれによる腎障害です。
疾患牛は出生時において異常は認められませんが、2ヵ月齢前後から腎障害による発育遅延及び蹄の異常伸長を呈します。一旦発症した子牛は7~8ヵ月齢までにほとんどが死亡します。投薬等の治療を行っても回復は望めません。
・検査成績の表示法
MCSU-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、モリブデン補酵素欠損症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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MCSU-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。モリブデン補酵素欠損症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
MCSU-欠損 | 疾患遺伝子のみを持つため、モリブデン補酵素欠損症になります。 |

(群馬県家畜衛生研究所提供)
本症は、第8番染色体に存在する原因遺伝子の変異によって発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は出生時から起立困難、吸乳欲減退、低体重などの症状を呈し、虚弱で下痢、肺炎への易感染性、発育遅延が認められます。
・検査成績の表示法
IARS-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、IARS異常症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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IARS-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。IARS異常症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては、子に疾患型が現れることがあります。 |
IARS-異常 | 疾患遺伝子のみを持つため、IARS異常症になります。 |

本症は、第26番染色体に存在するGFRA1遺伝子の変異によって発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は、肩甲部が著明に突出し、多くは出生直後から起立困難や振戦を示します。発育不良、耳介下垂等がみられる場合もあります。
・検査成績の表示法
FMA-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、前肢帯筋異常症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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FMA-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。前肢帯筋異常症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては、子に疾患型が現れることがあります。 |
FMA-欠損 | 疾患遺伝子のみを持つため、前肢帯筋異常症になります。 |
本症は、第10番染色体に存在するSLC12A1遺伝子の変異によって発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は、胎子期において腎臓機能の異常により、妊娠5~6ヵ月の母牛の尿膜腔内に多量の尿膜水を貯留させ、胎膜水腫(尿膜水腫)を引き起こします。母子ともに死亡する例が多いです。
・検査成績の表示法
BAS1-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、バーター症候群1型になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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BAS1-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。バーター症候群1型を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
BAS1-欠損 | 疾患遺伝子のみを持つため、バーター症候群1型になります。 |
本症は、第8番染色体に存在するFGD3遺伝子の変異によって発症する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
これまで枝肉重量を増加させる経済形質として、改良に利用されてきた一方、骨格の粗大を引き起こす原因にもなる遺伝的形質です。保因個体では、肥育牛において枝肉重量が有意に増加する一方で、発症個体では、骨端肥大、特に四肢関節肥大が見られ、出生時に過大子による難産の事例もあることが報告されています。
・検査成績の表示法
SD-正常 | 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、骨格粗大症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。 |
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SD-保因 | 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。骨格粗大症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患型が現れることがあります。 |
SD-異常 | 疾患遺伝子のみを持つため、骨格粗大症になります。 |