ホルスタイン種

現在、ホルスタイン種の遺伝的不良形質は下記の項目が検査可能です。すべて常染色体潜性遺伝様式ですので、正常牛と保因牛は外見では区別がつきません。
なお、毛色は遺伝的不良形質に含まれませんのでレッド因子の遺伝子型検査はその他の遺伝子型検査をご覧ください。

BLAD牛の歯根部にみられた潰瘍(酪農学園大学獣医学部 永幡 肇教授提供)

本症は、CD18β鎖の変異によって発生する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。白血球の粘着蛋白質の一種であるCD13/CD18インテグリンのうちCD18(β鎖)の欠損により、白血球が疾患部位に付着できなくなります。このため、常在する病原菌に対しても抵抗性を欠き、発熱や下痢を繰り返し、傷の治癒不全、口腔などの粘膜潰瘍、歯肉炎、などを起こし、生後数ヶ月で死亡します。

 

・検査成績の表示法

BLF(TL)である 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、牛白血球粘着性欠如症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。
BLC(BL)である 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。牛白血球粘着性欠如症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患が現れることがあります。
BLADである 疾患遺伝子のみを持つため、牛白血球粘着性欠如症になります。
CVMにより死亡した子牛(酪農学園大学獣医学部 永幡 肇教授提供)
疾患牛の骨格標本-椎骨が癒合している

本症は、胚の発生初期に細胞内で体節や脊椎の分化に関与するSLC35A3遺伝子の変異により発生する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
主な症状は流・死産による出生率の低下、あるいは新生子の奇形による死亡がみられます。奇形の特徴は、頚部や胸部脊椎の短縮、両前肢手根骨関節や飛節関節の左右対称的収縮と捻転で、心奇形を伴なう場合もあります。

 

・検査成績の表示法

CVF(TV)である 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、牛複合脊椎形成不全症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。
CVC(CV)である 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。牛複合脊椎形成不全症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては、子に疾患型が現れることがあります。
CVMである 疾患遺伝子のみを持つため、牛複合脊椎形成不全症になります。
単蹄(左)と正常な蹄(右)

本症は、胚発生に関与するLRP4遺伝子の変異によって発生する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
主な症状は、指骨/趾骨が早発性の癒合を起こし、ひづめが一つしか出来ないため、重度の歩行困難になります。不完全な浸透度をもち、右前肢・左前肢・右後肢・左後肢の順に発症しやすい傾向があります。
ホルスタイン種の変異については遺伝子型検査が可能です。

 

 

・検査成績の表示法

MFF(TM)である 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、単蹄になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。
MFC(MF)である 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。単蹄を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患が現れることがあります。
単蹄である 疾患遺伝子のみを持つため、ほとんどが単蹄になります。
牛短脊椎症により死亡した子牛

本症は、DNA修復に関与するFANCI遺伝子の変異によって発生する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
主な症状は流・死産による出生率の低下で、死産胎子は低体重(10kg程度)となります。背骨と尾が極端に短く、心臓や多くの内臓に欠損がみられます。

 

 

・検査成績の表示法

BYF(TY)である 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、短脊椎症(ブラキスパイナ)になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。。
BYC(BY)である 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。短脊椎症(ブラキスパイナ)を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患が現れることがあります。
ブラキスパイナである 疾患遺伝子のみを持つため、短脊椎症(ブラキスパイナ)になります。

本症は、胚発生に関与する遺伝子の変異によって発生する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。ゲノミック評価に用いたSNP情報からホモ型が存在しないハプロタイプとして検出され、潜性遺伝様式の胚致死性関連遺伝子が突き止められました。保因牛同士の交配では不受胎の原因となることがあります。
ゲノミック評価時のハプロタイプ推定とは異なり、原因遺伝子の変異を直接検査することで確実に遺伝子型を知ることができる検査です。検査申込は7種の遺伝子がセットですので個別に検査はできません。

・検査成績の表示法

H1~7Fである 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、発症しません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。
H1~7Cである 常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては不受胎の原因となることがあります。
H1~7Sである 疾患遺伝子のみを持つため、胚発生が停止します。出生することはありません。
発症個体(左:44日齢、右:3ヶ月齢)
(帯広畜産大学 猪熊 壽 教授提供)

本症は、脂肪代謝に関与するAPOB遺伝子の変異によって発生する常染色体劣性の遺伝的不良形質です。
発症牛は、正常な体格で生まれますが、ほとんどの個体が3週~6か月で死亡します。
主な症状は、慢性下痢、肺炎、浮腫、発育不全で、血中コレステロール濃度が極めて低くなるのが特徴です。

 

・検査成績の表示法

CDFである 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、コレステロール代謝異常症になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。
CDCである 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。コレステロール代謝異常症を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患が現れることがあります。
CDSである 疾患遺伝子のみを持つため、コレステロール代謝異常症になります。
MW発症個体
補助なしでは起立できず、四肢の脱力がみられる
(東京大学 猪熊 壽 教授提供)

本症は、筋収縮に関与する電位依存性 Ca2+チャネルCACNA1S遺伝子の変異によって発生する常染色体潜性の遺伝的不良形質です。
発症牛は新生期に起立困難などの運動障害を引き起こし、二次的に肺炎などの健康被害をもたらします。

 

 

 

・検査成績の表示法

MWFである 正常遺伝子のみで、疾患遺伝子を持たないため、早発性筋力低下症候群になりません。子に疾患遺伝子を伝えることはありません。
MWCである 正常遺伝子と疾患遺伝子を持っています。早発性筋力低下症候群を発症することはありませんが、1/2の確率で子に疾患遺伝子を伝えるため、交配する牛によっては子に疾患が現れることがあります。
MWSである 疾患遺伝子のみを持つため、早発性筋力低下症候群になります。